この文章は2003年に教室の保護者のみなさんに向けて書いたものの改訂版です。
最初の稿のあとがきにも書いたのですが、子どもの絵についてはっきり断定できることはほとんどありません。しかし「たぶん」や「かも」ばかりではあまりに読みづらいので、実証されていない仮説や私見もかなり断定的な言い回しで書いています。
子どもの絵の発達には最初にあげた頭足人の問題の他にも、いくつも大きな謎があります。
「輪郭線で描く」のところで書いたように、子どもの絵は「何がどこにあるか」から「どう見えるか」へとしだいに変化していきますが、これは最大の謎といっていいでしょう。
この変化の背後にはイメージの発達があるはずです。近年、イメージはものを見るのと同じシステムを使って作られるらしい、ということがだいぶ確かになってきました。しかし、その発達についてはほとんどわかっていません。
つい先日、教室の一年生の男の子がスケッチをしていました。自動車の形をした鉛筆立てを立体的に描いていたので、私はおどろいて、前から聞いてみたかった質問をしました。
「◯◯くん、絵を描こうと思ったとき、描こうとする絵が頭に浮かぶ?」
その子は少し考えてから
「うん、でも後ろは見えない。」と答えました。
この子は特殊なケースなのかもしれません。では、他の子どもたちの脳裏にはどんなイメージが浮かんでいるのか、もっと幼い子では、またもっと大きい子はどうなのか。イメージ研究の今後の進展に期待したいところです。
2012.5.4 野々村裕史
最後におすすめの本を。
なかがわ ちひろ 著
「おえかきウォッチング ─ 子どもの絵を10倍たのしむ方法」
2007年 理論社 定価 1500円(+税)
この稿の完成間際に手元に届き、一気に読んで「やられた!」という感じでした。図版も豊富で読んでいて楽しくなる。 こんな本が欲しかったのです。